無痛分娩

無痛分娩とは

無痛分娩は、麻酔を用いてお産の痛みを和らげ、母体への負担を軽減させる方法です。欧米ではこの方法がすでに主流ですが、日本では一般的とは言えません。それは、日本人の我慢強さ、自然志向のほか、陣痛に耐えてこそ母親、お腹を痛めて産むべきという考えが根強く残っていることも関係しているようです。しかしながら、痛みがあろうとなかろうと、お産が命がけの人生一大イベントであることに変わりはなく、それで母子愛に影響することはないと考えます。無痛分娩の方法は、①硬膜外麻酔、②脊椎麻酔、③静脈麻酔があります。当院では安全性が高く効果的で、最も一般的な硬膜外麻酔で行っております。
※下記「日本産科麻酔科学会の無痛分娩Q&A」も併せてご参照ください。

日本産科麻酔科学会

硬膜外麻酔による
無痛分娩とは

お産に伴う子宮収縮や産道の広がりによる痛みは、下の図のように背中の脊髄という神経を通って脳に伝えられます。

出典: 一般社団法人 日本産科麻酔科学会ホームページ

硬膜外麻酔による無痛分娩では、背骨のところにある硬膜外腔という場所にカテーテルと呼ばれる細くて柔らかいチューブを入れ、そこから局所麻酔薬を少量ずつ注入することにより下腹部の痛みを和らげます。意識ははっきりしていって、赤ちゃんが降りてくる感覚やお腹が張る感じをある程度感じながら無理なくお産を進めることが可能となります。

出典: 一般社団法人 日本産科麻酔科学会ホームページ

メリットとデメリット

《 メリット 》

無痛分娩の最大のメリットは、お産の痛みが和らぐことです。お産に対する不安や恐怖心、陣痛からくるストレスが軽減され、心身ともに落ち着いた状態でお産に臨むことができます。特に、長時間のとてもつらいお産を経験された方には特に有益な選択肢と思われます。また、精神面での持病や不安定さがある方も有効となることが多いと思われます。分娩後に傷の縫合が必要な場合でも縫合に伴う痛みのストレスが軽減されます。体力の消耗が少なく、お産後の回復もはやいと言われています。

《 デメリット 》

妊婦さんのいきむ力が弱くなり、吸引分娩(ガイドラインの範囲内で安全に行います)の割合が増えます。また、まれですが重篤な合併症として全脊椎麻酔と局所麻酔中毒があります。「無痛分娩事故」として報道されたものの多くは、全脊椎麻酔によるものです。万全の注意を払って実施しておりますが、どんな医療行為にもリスクはあり、やむをえずおこる症状もあります。

よくおこる副作用
【足の感覚が鈍くなる、足の力が入りにくくなる】使用する薬剤により症状が異なります。
【発熱】無痛分娩を開始して時間が経過すると、37.5℃以上の熱がでることがあります。
【かゆみ】使用薬剤によりまれにかゆみがでることがあります。
【排尿障害】麻酔の効果が現れるとともに膀胱に尿がたまってもそれを感じなくなったり、尿がうまくだせなくなったりすることがあります。そのため、定期的に導尿を行っております。

まれにおこる副作用
【血圧の低下】局所麻酔によって血管の緊張がとれ、血圧が下がることがあります。
【全脊椎麻酔】硬膜外カテーテルの先端が硬膜をつうじてさらに奥にあるくも膜下腔に入ってしまうことがあります。そこに麻酔薬を入れ続けると上半身まで麻酔が広がり、呼吸が苦しくなったり、呼吸ができなくなったりすることがあります。
【局所麻酔中毒】カテーテルの先端が血管に入り、麻酔薬を入れ続けることでおこります。初期症状は舌や唇がしびれたり、金属味や耳鳴りがあったりします。重篤な場合は痙攣がおこることもあります。
【血腫、膿瘍形成】カテーテル挿入時に血腫や膿瘍を形成し、脊髄が圧迫され背中の痛みや足の感覚が麻痺することがあります。
【頭痛】数日間軽い頭痛を感じたりすることがあります。

赤ちゃんへの影響

無痛分娩による麻酔薬で赤ちゃんに影響がでることはありません。仮死になる頻度も自然分娩と差はありません。お産によるストレスを軽減することにより、胎児胎盤循環を改善させ、赤ちゃんによい影響が期待できます。薬剤の母乳への影響もありません。

当院の無痛分娩の実際

原則、計画分娩にて対応しております。また、子宮頸管熟化目的のメトロイリンテル、陣痛促進剤の効果が得られない場合は、分娩に至るまでに数日かかる場合があります。
おおよそ妊娠8-9週までに計画分娩の日程を決定しております(日程を決める週数は、希望者の増減により前後することがあります。希望者が多い月は、妊娠8-9週でも日程の枠がうまっていることがあります。予定日が決まりましたら、電話でも結構ですのでお早めに連絡をお願いします)。
当院では原則、麻酔科標榜医である院長と経験豊富な医師が出産を担当します。痛みをとることはもちろんですが、一番は安全性が重要と考えております。初産婦さんか経産婦さん、合併症、分娩の進行具合等で対応の仕方が変化していきます。その時その時の状況にあわせて麻酔の種類や量を選択しております。
当院での無痛分娩でよかったと言われるように、精一杯対応させていただきます。

※当院院長は、J-CIMELS(日本母体救急システム普及協議会 https://www.j-cimels.jp)のインストラクターであり、硬膜外麻酔下での分娩を安全に行うために(実習編、日本産婦人科医会)講習修了済みです。